会長ご挨拶

  昨今、アディクション問題は、かつてのアルコールや違法薬物に代表される疾患に留まらず、市販薬依存、ギャンブル障害、ゲーム障害、さらにはインターネット依存症など、新たな依存対象の出現に伴い、その様態はますます複雑化しています。この背景には、家族関係の不全や小児期逆境体験( Adverse Childhood Experiences:ACE )といった個人史的要因に加え、現代社会における孤立、格差、ストレス過多といった社会構造的要因が深く関与していることが指摘されています。依存症は単なる個人の意志の弱さによるものではなく、複合的な生物学的、心理学的、社会学的要素に起因する、慢性かつ再発性の疾患であると位置づけられています。
 日本アディクション看護学会は、アルコールや薬物といった物質による依存症のみならず、様々な社会問題の背景に隠れたアディクション問題に看護はいかに取り組むべきかということを考え、臨床実践と研究活動を 促進することを目指して 2002 年に設立されました。設立以降、看護職に求められる役割も変化し始め、従来の枠組みを超えて再考される必要に迫られていると考えています。さらに依存症支援では、対象者に寄り添い、尊厳を保持しながら、再発予防、回復支援、社会復帰促進を目的とした長期的な関わりを構築していくことが不可欠です。また、依存症の患者を抱える家族に対する支援も重要です。
 本学術集会においては、「複雑化する依存症の未来の創生−回復のカタチ−」をテーマに依存症の最新の知見と動向を踏まえつつ、複雑化する依存症に対して看護職がどのように支援を展開すべきかについて、理論と実践の両面から探究することを目的としています。「回復のカタチ」は、対象者一人ひとりの個別性を意味し、あえて様々な言葉を連想できるように致しました。依存症の支援は、常に地域で生活する中にこそ重要な意味があります。単に、依存対象を断つだけではなく、「生きづらさ」や「孤立」からの脱却、自己の再構築、社会との再接続を含めた包括的な回復支援の在り方を探ります。加えて、対象者の語りや経験知に学び、医療・福祉・教育・司法・地域といった多領域が連携した新たな支援モデルの可能性について議論を深める場を目指します。
 具体的には、回復モデルに基づく支援アプローチ、トラウマインフォームドケア( Trauma Informed Care )をはじめとする新たな看護支援モデルの適用可能性、対象者との関係性構築における倫理的配慮、対象者の背景にある家族関係の不全や小児期逆境体験についての理解、さらには地域資源との連携のあり方について、実践報告やシンポジウム、討議を通じて多角的に議論を深めていきたいと思います。また、一般市民の皆様には、依存症の理解を深めていただき、社会全体の理解と共感を促進し、対象者への差別や偏見の改善に少しでも寄与できることを願っております。
 横浜市は、開港以来の歴史と文化が息づく日本を代表する港町で、みなとみらい地区を中心とした未来的な都市景観と異国情緒あふれる街並みが調和した魅力ある街です。多文化共生の街としても知られ、国内外から多くの人々が集まり、多様な価値観や文化が交流しています。歴史と革新が共存する横浜で、複雑化する依存症の未来の創生について考える有意義な機会にしたいと考えております。
 ぜひ多くの皆様にご参加いただき、活気あふれる港町横浜にてお目にかかれますことを心よりお待ちしております。




令和6年8月吉日


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